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『「東京」に出る若者たち』は、地方創生問題を考える入門書

今回の解散・総選挙でも、人口減少と地方創生なんてのが大きなテーマとして各党のマニフェストでも取り上げられております。

それでは、なぜ地方は疲弊しているんでしょう?
なぜ地方では、都市よりも早く人口が減少し、過疎化が進んでいるんでしょう?

増田元総務大臣が提示した「消滅可能性自治体」という概念が出てきてから、急にクローズアップされるようになりましたが、問題はずっと以前から起きてます。

地方の出生率は都市と比較すると、総じて高い傾向にあります。
特に東京は、ダントツに低い。
そんな東京に全国の若者が集中しているから、さらに少子化に拍車がかかっている。

地方から若者流出→都市は出生率が低い→少子化

という構図になっているため、日本全体を盛り上げるには・・・・

地方に若者回帰→地方は出生率が高い→地方創生・少子化解消

という図式にもっていきたい、というのが各党のねらいのようです。
まぁ、そんな簡単にいく訳はありませんが(笑)

ではなぜ、若者は東京に出るのか、というテーマについて経済学的見地、社会学的見地から詳細に分析した本がありましたので、読んでみました。


アウトラインはこんな感じです。
まずは出だしから。
・移動する者の人的資本が、地域の平均的な水準と比較して高い場合には、労働移動によって、人口増加地域の平均的な人的資本が向上し、賃金格差はますます広がる。
・高度成長期とバブル期以降、都道府県間の移動は減少したが、それでも年間250万人が移動している。
・同一都道府県内の移動も同様に、高度成長期からバブル期までは旺盛に移動。地価の上昇により、都市に勤務し、郊外に生活するスタイルが定着。
・学歴別に見ると、高学歴であれほど労働移動が起こりやすく、より広範な場所へ移動する。
・低学歴層は高い人的資本を要求しない賃金の安い仕事に就く傾向にあるため、他県へ移動するメリットがない。このため、大卒者との格差が広がる。
・進学や就職といったステージを過ぎると、県間移動は急速に減少。 

実にに当たり前。実に自明のことが論じられています。
誰もが「そうだろう」とぼんやりながらも肌感覚で認識していることを、改めて数字によって論証。

むしろ、こういう「当たり前」のことを論じることって難しいものです。

・なぜ若者は東京へ向かって移動するのか。移動に伴うコストより移動により得られるコストが大きいからである。
※期待効用=(期待賃金(都市)✕就業確率(都市))-(期待賃金(地方)✕就業確率(地方))
・高学歴者ほど、地方・地元で暮らし続ける率が低い。
・地方出身で都市で高等教育を受けた者の正規雇用就職率が最も高い。
・進学時の移動が、就職時の移動よりも圧倒的に高い。
・進学時に都市へ移動した若者の65.7%がそのまま都市で就業する。
※都市進学者は、高い賃金を見込める高人的資本の保有者と解釈
・同じ地方出身者であっても、就労場所によって、賃金所得格差が発生。地方より高い(年45.6万円)。
・東北六県では、大卒者の労働需要が顕著に低い。
・一方で、高卒者の賃金水準は、都市と地方で大きく異ならない(年20.7万円)ため、地域間を移動しても大きな利得を見込めない。

個人的には、このセクションが一番示唆に富んでいました。
要するに、都会が好きだからとか、そういう理由はさておいて、経済的に都市で就業したほうが有利だから、という身も蓋もないけれど、むしろどうしようもない現実が明らかに。

高学歴になったことで、都市で就業することでより高収入を得る機会を得たからには、当然ながらそれを活かしたくなるのが人情ですわな。

一方で、なぜ高卒者は都市に出ないのか?
これは意外にも、分かっているようで分かっていないもの。

要するに、高卒で都市へ出ても、地方にいるときと比較して高収入の仕事に就くことができる可能性が低いから、と。

これは結構大きな問題。
進学率を上げれば上げるほど、地方から人がいなくなる。
優秀な人材を育成しようと、地方でも県立や市立の大学などを設置している例は多数ありますが、内実は都市への人材供給基地になっています。

地元岩手県の大学でも、地元定着率はわずか3割。
それ以外は県外へ就職してしまっています。

仕事がない。希望する職種に就けない。

地方には、地方の良さがある、とはいうものの、現実には、地方ほど都市を志向していまっています。

つづいて、社会学セクション。

・地域ごとに流出パターン(ローカルトラック)がある
・就職を契機とした都市移動は少なく、進学時点の都市移動が多い。 

地域ごとに、移動する都市のパターンがある、というのは面白い分析。
肌感覚ですけど、これは確かにありますね。

・地域間移動は人間関係に大きな影響をもたらす。
・人的資本の低い者は、移動によるメリットが低いことから人間関係を含む移動コストが経済的な利益を上回りやすい。
・人的資本が高く、移動によるメリットが高ければ地元関係を失うコストが相殺される。
・地方出身者は、就職時にUターンするとアクティブな友人関係が回復する傾向にあるが、都市出身者はUターンしても回復あまりしない
※東北出身者の地元関係は非常に強い・・・クラスが少ないから関係が濃密になりやすいことなどが原因か?

社会学セクションで面白かったのは、この部分。
移動によって従来からの人間関係は失われることによるデメリットと、都市移動によって得られるメリットを天秤にかけたとき、どちらが優先されるか。

メリットが大きければ移動し、そうでなければ移動しない。
前段の経済学セクションに回帰して、経済的にも、人間関係的にも、メリットとデメリットを比較して、得られるものが大きければ、人は都市へと移動する、というものだ。

大企業の地方移転を促進して、現代版人返しの法みたいなものをやろうと政府では考えてるようですが、個人と同じくメリットがデメリットを上回るかどうか、というのが大前提。
いま提示している税制優遇程度じゃ、まぁ、厳しいでしょうね。

最後に筆者が処方箋として、いくつかの手をあげていますが、正直無理ゲーな感じ。
結びも実に悩ましい。

・若者を地方にとどめることは、理想でない。地方にとっては望ましいだろうが、国家レベルでは利害が対立する。

そう。結局都市に人口が集中してくれた方が、社会的コストはいろいろメリットがあります。
けれど、都市では出生率が低い。

なので、国家の存続的には都市よりも地方に人口がある方が望ましい、と考えるワケです。

経済学的見地と社会学的見地という、背反する分野からのアプローチがされていて、なかなか面白かったですね。
個人的には、数字の積み上げで結論を導き出す経済的的見地からのセクションの方が、個人的には好みでした。

ところどころ、統計学とか数学的な素養がないよ読めない、専門的なセクションがありましたが、そこは筆者も「興味が無い人は飛ばしてください」という感じだったので、ちょっと残念でしたけど、なかなか読み応えはあります。

研究書なので、価格もやや高めかつ電子書籍もないので、紙で読まないといけませんが、なかなかの力作です。

ぜひご一読を。



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